回想・・・
大規模回収事故を起こして初めてお客様の気持ちを知った愚か者40年近くの食品企業勤務の中で多くの製品事故を見たり、聞いたり、遭遇したりしてきたが、2004年10月の大規模異物混入回収事故は辛かった。大規模回収事故の現場は(弾丸の飛び交う戦場とは比べようはないが)修羅場だった。経験しなければ分らないだろうが、決して経験してはならない。幸いにもお客様に健康被害はなかったが、所属組織の存続を脅かし、当該現場の人々の人生も変えてしまった。顧客の緊急査察での罵声・・自組織内部からの冷ややかな視線・・点検・復旧作業は昼夜を問わず行われ、当該現場の従業員は酷く疲弊し、支援していた私も疲弊していく・・そんなさ中、入社以来仲の良かった先輩上司で当該現場責任者が事故の責任を一身に背負い自死した・・・前夜最後に言葉を交わしたのは私だったかもしれない・・・雑木林へ捜索に行っき先輩上司を見つけた時の情景は今でも鮮明に記憶に残っている。そんな暴風雨のような時間の中で初めてお客様の気持ちを知ることになる・・・回収状況を確認するため担当部署へ出向いたとき、担当者から渡されたお客様からの回収品に添えられた手紙・・・お叱りの手紙もあったが「家族が貴社以外の製品は美味しくない!と言います。早く製造を再開してください。頑張ってください。」と書かれていた。その他にも気遣いや励ましと早期の製造再開を要望する手紙が沢山あり、涙が零れて読めなくなってしまった。更に数日後、事故処理状況の確認に来場された所轄保健所担当官と当該現場に移動する際に担当官が「渡辺さん我が家の冷凍庫に当該品があります。」と言われた。私が「回収に伺います」と言ったところ「回収は不要です。製造再開までしばらく時間が掛かるので大切に使います。もし、異物が有れば連絡しますね」と言われ、また不覚にも涙が溢れてしまい平常を装うのが大変だった。お客様に自分たちの製品がこれほどまで贔屓にして頂いていたことを大きな事故を起こして初めて知る情けなさとこの状況でも暖かい人情を頂いたことへの感謝の気持・・・思い出すと今でも目頭が熱くなる・・・以来、役員、上司に敬遠されても事故を起こさないための辛辣な指摘もしてきた。悲惨な事故を防止するためなら職制など関係ない・・・結果、想定通り日焼けするほどの窓際に座ることが出来たがそれも良いい(笑)繰り返しになるが、大事故を起こすと体力のない組織は確実に潰れる・・・従業員の人生も変わる・・・経営者はそこのところを確り自覚し、かっこの良いこと、目立つことだけに注目してはいけない・・地味な安全を当たり前に達成すべきだ。